郵便年賀.jp
十一月。気づけばもう今年も終盤。少しずつ年の瀬の空気が入り混じって、吹く風からはいつの間にか冬のにおいがしている季節。
「ふん、ふん、ふ〜ん」
音程のずれた音痴な鼻歌に一護が振り向けば、こたつむりがタブレットにウサギ擬きを書いていた。
「この板はすごいな。ペンで書いたのがそのまま絵になる」
「・・・よかったな」
iPadを単なるお絵かきグッズとして使用しているルキアはさすが大貴族のお嬢様である。一護は羨ましくてたまらない。iPadを買うのって、一般人はそうそう気軽にできるものじゃない。
「来年はうさぎ年だから楽しみだ」
どうやら描いているのは年賀状の絵らしい。一護が覗き込めば『あけましておめでとうございます』とうさぎ擬きがお辞儀をしている。横のチンアナゴの大群みたいなのは、もしかして・・・
「なんで門松に顔があるんだよ」
「うわ!見るな!」
高価なiPadに、がばっと覆い被さるので怖い。精密機器だぞ、それ。口には出さず顔に出す。するとルキアがむぎゅっと眉間に面白おかしく皺を寄せる。一護を真似しているのだ。「眉間の皺、濃くなってますよ」のサイン。
「ふふふ。なに、今まで年末年始は朽木の行事で忙しく、年賀状はろくに描いておらんかったからな」
「そうなのか。忙しいんだな貴族って」
「まあな。それに貴族にとっての年始の挨拶は葉書一枚などではなく、もっと派手というのだろうか・・・。だから尚更、こうして気軽に近況を伝え合える機会は良いと思うぞ」
「そういうもんか」
「何だ、貴様は書かぬのか?」
「今はほとんどスマホでやりとりして終わりだなー」
「勿体無いな、良い文化なのに」
そうなのか。そう思われるものなのか。
年始の挨拶などもうここ数年はLINEで済ませている。来る年賀状だって年々減っていた。
しかし、目の前でこうも楽しそうにペンを走らせているルキアを見ると、感情の記憶がふつふつと蘇る。小学生のころにワクワクしながら書いていたっけ。元日にはポストを開けるのが一護の仕事だった。父親の元患者や家族からたくさん。有沢家からはいつも写真付きの年賀状が届いていた。母親が亡くなった時に出した寒中見舞いは味気なく寂しかった。
「誰に出そうかな。井上だろ、有沢だろ。石田に茶渡に・・・浦原にも出してやるか」
「なんだかんだ世話になってるからな」
「そうだ、尸魂界にも届くだろうか。恋次や兄さま、隊の皆にも出したいな・・・」
「ご苦労なこった」
「もちろん貴様にも出すぞ」
「はあ?」
「え?」
「一緒に住んでんじゃねーか」
「出してはいけないのか?」
「え・・・知らねえけど。ていうか、手渡しでよくね?」
「嫌だ」
ちら、と一護を見たルキアはこたつから脱皮した。
「完成系は元日まで待て」
「楽しみにしてるぜー」
「なぜそう棒読みなのだ。とびきりの傑作を仕上げてやる」
「へーい」
ルキアはiPadを抱え込んでいる。
その、緩んだ口元に、一護はやられた。
「・・・年賀状って、スマホでも作れるのか」
「ん?」
「いや、こっちの話」
一護のスマートフォンの画面に色とりどりの年賀状テンプレートが並ぶ。どのデザインにしようかな。元日にポストを見て驚き喜ぶルキアを想像すればもう楽しい。