※雨竜君と織姫さんが結婚しています。イチルキだけではないのでご注意を。

お歳暮


ピンポーン

「はーい」

ぱたぱた、と妻が玄関に走る音。僕が食器を洗う音。幸福な生活音というのはこういうものをいうのだろう。ふとしたときに実感して頬が緩む。だめだ、また「雨竜くんは・・・む、むっつりだよ!」と怒られてしまう。それすらも嬉しいんだけど。
12月。すっかり寒さが厳しくなって、もう、皿を洗う水の温度を上げるようになって久しい。

「なんだった?」
「宅急便。黒崎くんたちから!」
その名前を聞くと、今でも時々ムカッとしてしまうなんて言ったら、君は驚くだろうか。意外だと。言ってやりたいと思うけれど、にこっと笑うその優しい顔にいつも釣られて笑ってしまう。
ほらね、と身体を寄せられて彼女が抱える箱には、角ばったへたくそな字で書かれた伝票が付着していた。朽木さんの字だ。差出人に「黒崎 一護」と書かれている。旦那は自分で書かないのかと他人の僕が苛ついてしまった。
「開けていい?」
「どうぞ。」
「ぃやったー!」
リビングに戻った妻が、それはそれは嬉しそうに、「ではでは・・・」と両手に鋏を携えて(逆に切りづらくないのか?)小包を開けていた。
「あ!」
「なんだった?」
「・・・なぞなぞです!箱の中身はなんでしょう?当たったらいいことしてあげる!」
妻はとてもとても嬉しそうに問いかけてきた。いいことと言われて僕は真顔になってしまう。いやいや、そんなむきになって僕は何を。ただの言葉の綾だろうし。
・・・・箱の大きさからして結構なものに見える。彼女が抱えられるくらいだからそんなに重くはないはず・・・待て、彼女の腕力だし、それはあてにならない。クール便のシールはなかった気がする。ということは、昨年のように超高級黒毛和牛の厚切りステーキ肉詰め合わせではないということだ。あれは嬉しかったが如何せんいい肉だということが一目瞭然でびっくりしたし、こちらが数千円の焼き菓子セットを贈ったことがひどく申し訳ない気がしてしまった。彼らにとって一体僕たちはどういう存在なんだ・・・・?

閑話休題。
「重い?」
「うーん、けっこうずっしりくる!」
「色は?」
「えーっとね・・・色とりどりかな・・・」
「飲み物?食べ物?」
「食べ物。ヒントあと1回ね!」
「回答は何回までOKかい?」
「1回だけ!」
「厳しくない?」
「大丈夫だよ!」
何がだ。こっちはいいことがかかっているんだぞ!・・・なんて。いやいや。
色とりどりの食べ物か。去年の一件で、朽木さんの金銭感覚がおかしいことは承知したから、たぶん高いものだろう。朽木さんのこと、じゃあ今年からは安いもので・・・とはいかない気がする。あの子に現世の感覚を教えてやってくれ!と黒崎を叱っても、「そのへんルキアに任せてるから俺に言われても・・・」としどろもどろになっていた。尻に敷かれているのか妻に任せきりの亭主関白なのかはっきりしてほしい。
色とりどりか。ケーキといきたいところだが、常温品ならゼリーの詰め合わせだろうか。それとも。
「・・・食べるときはスプーン?フォーク?」
「ん~・・色々かなあ・・・。」
「・・・・・うん。果物の詰め合わせかな。」
「・・・正解!雨竜君生まれ変わったら探偵になれるよ~」
じゃーん、という効果音つきで、妻が箱の中身を見せてくれた。そこにはメロン・・・2つも!?あとは洋ナシや真っ赤で艶々なリンゴや・・・ともかくたくさんの果物が並んでいた。しかしどれも、妻の胸の大きさには負け・・・と僕はどこを見ているのか。
「お礼、何がいいかなあ。前に結婚祝いでもらった旅行券、すごく嬉しかったからお返ししてあげたいけど、今年はゆっくりしてほしいもんね。緑茶も、今はルキアちゃん飲めないし。身体によさそうなものがいいよね!」
「そうだね」

そう。朽木さんは妊娠した。
義骸だからなんだとか、死神は授かることがまれだとか、2人が付き合いを始めたころから黒崎共々ごちゃごちゃ言い訳のように言っていたが、僕らより遅く結婚したわりに僕らより早くに子供を授かった。面倒な友人らである。嬉しいような情け無いような。良いんだ、僕らは僕らのペースで進むから。
僕らが結婚した時、「夫婦2人でゆっくりできる時なんて、はじめのうちしかねえだろ」と黒崎は旅行券をくれた。その時の彼らはまだ結婚すらしていなかったわけだが、思えばその時から彼らは子供を授かる気持ちでいたのだろう。黒崎、頑張ったんだな・・・いろいろ。少しだけ卑俗なことを考えてしまって思わず咳払いをした。さっきから僕はこんなばかりだ。いつまでこんな新婚モードでいるのかと自分で呆れてしまう。こんなだからむっつりだと怒られるのだ。


織姫さんがすごく喜んでいたよ、と電話したら、何贈ったんだっけ?と黒崎はとぼけた。
「君はもう少し朽木さんに協力したらどうなんだい?彼女の身体は大丈夫なのか?妊婦というのは――」
「うるせえな。お前は心配しすぎなんだよ」
「な・・・仕方ないだろう。これでも僕は医者だ。他人の調子が気になってしまうのは職業病だ」
「心配しなくても、俺はてめーが思ってるより、ずっと愛妻家だっての」
電話口で黒崎は拗ねるが、大の大人が拗ねたところで気持ち悪いだけなので僕はため息をついた。
「こちらはまだ準備できていなくて。すまないな」
「あんま気にすんなよ。こういうのは気持ちだろ。」
「助かる。せっかくだし、朽木さんの身体によさそうなものを贈りたいのだけれど。彼女、何か食べたいものとかはないだろうか?」
「今は何でも食えてるし、大抵何でも喜ぶと思うぞ。ちなみに俺は明太子だと嬉しい」
「君の意見は聞いていない!」
予定は春。そこのころに、このハトコは父親になるのかとしみじみした。


「お電話終わった?」
リビングに戻ると、織姫さんはまだギフトカタログを見ていた。こういうのは見ているだけでも楽しいよねえと、目を細めている。黒崎の希望を念のため伝えると、明太子かあ~と、細めていた目を丸くした。
「うふふ、雨竜君たら黒崎君と話せて嬉しそう」
「な・・・っ、なにを言うんだ君は?!」
思わず自分の頬をさすると妻はまた目を細める。
「二人の赤ちゃん、どっちに似ても怒ったらとっても怖そうだね!」
全くである。釣り目とたれ目の混合種、どちらに似ても口が悪くて、目つきが悪くて、そして、きっと優しい。
「楽しみだね。ねえ、あたしたちにも子供ができたら、一緒に遊ばせてあげようね。それできっといつか、茶渡くんとか阿散井くんとか、たつきちゃんとか、乱菊さんとか冬獅郎くんとか尸魂界のみんなも一緒に、あ、あとネルちゃんとかも一緒に、みんなでお花見行ったり海に行ったりしようね!秋は焼き芋大会でしょ、冬はみんなで雪合戦!」
「そうだね・・・できるといいね。」
離れた世界に生きる皆を。異なる種族を。妻は、そして僕らはつないでゆく。それはさながら雨のように美しい。黒崎も、朽木さんも、織姫さんも僕も。僕らだけじゃない、きっとたくさんの人が血を、涙を汗を流してきた。少しでも悲しくない道を歩むために。
「いつか・・・いつか、きっと。戦いあった時を笑えるような、そんな日が来るといいね。」
「きっと・・・ううん、絶対来るよ。人間も、尸魂界のみんなも、虚圏のみんなも。滅却師の雨竜君も。みんな私の友達だもん!」

お前の嫁さんは初対面の人と仲良くなるのが上手いよな、と笑った黒崎の顔が脳裏に浮かんだ。僕はなんだか嬉しくて泣きそうになった。

おわり

20181028

いつも季節に遅れてしまうので早めに年末の話を、と思ったら早く出来上がりすぎました。イチルキサイトなのでいらしてくださるかたはイチルキ好きさんだと思いますが、石田君と織姫さんに関しては、雨ネムが好きな方、ウル織が好きな方おられると思います。そのため小説の前に注意書きを設けました。私は雨ネムもウル織も好きですが、結婚するなら織姫は石田がいいなと思っていました。(でもコンビとしては織姫とチャドも好きでした・・・。)このたびは石織で活動されている方によい影響を受けて、この二人の話を初めて書きました。書きやすいぞ!?イチルキの書きにくさを痛感しました。笑
一護と織姫はいろんな人を魅了して世界を広げていくタイプで、だからこそ配偶者のルキアや石田は(もともと人付き合い苦手そうだし)不安になることも多いと思います・・・が、そういうのを一護も織姫もフォローしてあげていってほしいです。ルキアにはルキアの、石田には石田の魅力がちゃんとあるんですよね。決して病院の屋上でワンセグでチャドの試合を見ているだけの立ち位置ではないと思いますよ・・・。​

実は、思うところがあり初期の鰤を見返し、少し暗いことを書こうとしたのですがやめました。ここにいらしてくださる方々のおかげで私も楽しく創作が続けられています。ありがたいことです。